適正な請負の推進に向けて

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2013/07/29

【労務・コンプライアンスノート】第17回: 適正な請負の推進に向けて

少し前のことですが、東京労働局が平成24(2012)年度の労働者派遣事業及び職業紹介事業の指導監督結果を記者発表しました。

労働者派遣事業については、改正後の労働者派遣法に対する理解不足から、「派遣料金の明示が適切ではない」「31日以上の雇用契約期間を定めながら実態は禁止されている日雇派遣」などが是正指導内容として多く見られたようです。

発表では改正労働者派遣法の施行状況が強調されていましたが、実は、もっと注目すべき数字は別にあります。それは、請負事業者に対する是正指導件数の割合の大幅な増加です。

指導監督を行った64件の請負事業者のうち、58件に何らかの法違反があり是正指導が行われたという結果で、平成23(2011)年度比70.6%増です。



なぜ請負事業への指導が増加したのかということについて、この記者発表で東京労働局は詳しく説明しておりません。

もし、改正労働者派遣法の施行によって、派遣労働者を受け入れられなくなったために苦肉の策として不完全な請負事業(いわゆる「偽装請負」)となったのであれば、これは問題です。

つまり、単に「規制する」だけではなく「今後はどのように需給調整すべきか」という対案を示さなければ、需給調整が必要であるのに合法的手段がないということになり、求職者にとっても不幸な問題が生ずるからです。

ここで注目されている請負は民法第632条に基づく契約ですから、本来は行政が関与すべき事業ではありません。

しかしながら、請負と称して実際は労働者派遣の実態である場合は行政の指導監督の対象となることから、昭和61(1981)年に「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)が定められました。

この告示は20年以上も解釈が「据え置き」の状態で、「告示制定時と労働の現場が大きく変わっているのに解釈が発展していないおかしい」「例示が少なく、例示のない職種や業態についての解釈が都道府県で異なる」と異論が噴出し、平成21年3月31日に実に23年ぶりに「疑義応答集」が更新されました。

それから4年が経過し、厚生労働省は再びこの告示第37号を現代的に解釈するために「疑義応答集第2集」の作成に着手しています。

この「疑義応答集第2集」の作成については、現場の意見を広く汲むためにパブリックコメント制度(意見募集制度)が採用されています。

請負事業についての現在の行政指導の在り方や、多様化するアウトソーシング事業と20年以上前の告示の内容との齟齬について、実際に求職者のニーズにどのように応えるかという視点から、どんどん現場の意見を提示すべきであると思います。〆切は平成25(2013)年8月3日です。

総務省 e-Gov(イーガブ)「パブリックコメント制度(意見募集制度)」はこちら


請負事業の現場から、この機会に意見を提出してみてはどうでしょうか。

「派遣も、請負も、紹介もできず、ハローワークでも取り扱えない」という事業があるなら、それはどうしたらよいのか国に対案の提示を求めなければ、求職者は働く機会を奪われたままなのですから。

(2013.7.29 掲載)

このコラムに関するお問い合わせ:
ランスタッド株式会社 コミュニケーション室
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Email: communication
@randstad.co.jp

労務コンプライアンスノート本コラムでは、多様な人材を活用する企業人事部門の皆さまが、コンプライアンスに則った適正な形で人事・労務業務を遂行いただけるよう、ランスタッド顧問社労士がバラエティに富んだ労務トピックスを分かりやすく解説いたします。

特定社会保険労務士 田原 咲世 (たはら・さくよ)

1968年大阪生まれ。立命館大学修士課程修了後、旧労働省に入省し、労働基準法・男女雇用機会均等法・派遣法改正などを担当。2008年3月まで北海道労働局の需給調整指導官として活躍。2008年4月から札幌で北桜労働法務事務所を経営。特定社会保険労務士として、労働関係法を中心とした指導を行う。現ランスタッド、顧問社労士。

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