障がい者雇用促進法と法定雇用率

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2018/01/12

労働者に占める障がい者の割合が一定率以上になるよう、事業主に義務付けられている法定雇用率。これまで、雇用率は5年ごとに見直され、現在の民間企業の雇用率2.2%は2018年(平成30年)に施行されました。2023年(令和5年)には、法定雇用率の算定基礎の対象に、新たに精神障がい者が追加されます。障害者雇用促進法について、雇用側がおさえておきたいポイントを解説していきます。

障害者雇用促進法とは?

日本では障がい者の雇用促進のための法律として、1960年(昭和35年)7月に「障害者雇用促進法」が制定されました。詳しく見ていきましょう。

概要

「障害者雇用促進法」は、障がい者の雇用を促進することを通して障がい者の職業の安定を図ることを目的としています。そして、障がい者が障がいを理由に雇用の場面で差別され、職業の安定が十分に確保されてこなかったという歴史を踏まえ、事業主を対象に、(1)雇用義務制度、(2)納付金制度を、また障がい者を対象に、(3)職業リハビリテーションの実施、をそれぞれ定めています。

障害者雇用促進の意義と罰則

障害者雇用促進には、政府が提唱する、「共生社会を実現する」という意義があります。共生社会とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障がい者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会とされています。この共生社会を実現するためには、障がい者が職業を持ち自立していることが必要ですが、その前提として障がい者の職業の安定が大変重要と考えられているからです。

その重要性に鑑み、同法の定める雇用義務を履行しない事業主に対しては、行政指導、企業名の公表などの罰則が定められています。

法定雇用率

同法の定める(1)雇用義務制度に基づき、事業主は、その常時雇用している労働者の一定の割合(法定雇用率)について障がい者を雇用する義務を負っています。

現在の法定雇用率は、一般の民間企業の場合、2.2%です(2018年4月施行)。この法定雇用率は、5年ごとに改定され、次回改定は2023年(令和5年)に予定されています。
従業員45.5人以上を雇用する事業主は、毎年6月1日現在の障がい者の雇用に関する状況(障がい者雇用状況報告)を7月15日までにハローワークに報告する義務があります。

2018年(平成30年)施行の法定雇用率

事業主区分法定雇用率
民間企業 2.2%(45.5名に1人)
国、地方公共団体等 2.5%(40名に1人)
都道府県等の教育委員会 2.4%(41.5名に1人)

障害者雇用納付金制度とは?

障がい者を雇用する事業主には、場合によっては施設の設置や介助者の配置が必要になるなど経済的負担が生じます。そのため、法定雇用率を達成した事業主と未達成の事業主とでは、経済的負担の不均衡が発生するおそれがあります。

そこで、同法は、この経済的負担の不均衡を調整するため、納付金制度を定めました。
納付金制度には、法定雇用率未達成事業主から徴収される「障害者雇用納付金」、法定雇用率達成事業主に交付される「障害者雇用調整金・報奨金」、在宅就業障がい者に仕事を発注する事業主に対する「特例調整金・特例報奨金」、各種の「助成金」があります。

納付金について

法定雇用率未達成事業主からは「障害者雇用納付金」が徴収されます。その金額は、法定雇用障がい者数に不足する障がい者数に応じて1人につき月額50,000円です。

ただし、常時雇用している労働者数が100人を超え200人以下の事業主の場合は、減額特例の制度があります。その要件を満たせば、障害者雇用納付金は月額40,000円に減額されます。なお、同特例は、2015年(平成27年)4月1日から2020年(平成32年)3月31日までの時限措置(※)です。

常用雇用労働者数納付金額
300人超 一人マイナスにつき月額50,000円
100人超300人未満(※) 一人マイナスにつき月額40,000円

(※)減額措置期間があります

調整金や報奨金の支給について

常用労働雇用者数100人超の場合

常時雇用している労働者数が100人を超える事業主が法定雇用率を超えて障がい者を雇用している場合は、「障害者雇用調整金」が支給されます。その金額は、法定雇用率を超えて雇用している障がい者数に応じて1人につき月額27,000円です。

障害者雇用納付金申告もしくは障害者雇用調整金申請事業主であって、前年度に在宅就業障がい者又は在宅就業支援団体に対し仕事を発注し、業務の対価を支払った場合は、「在宅就業障害者特例調整金」が支給されます。その金額は、21,000円に、事業主が当該年度に支払った在宅就業障がい者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た数を乗じて得た額です。

常用労働雇用者数100人以下の場合

常時雇用している労働者数が100人以下の事業主で、各月の雇用障がい者数の年度間合計数が一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%の年度間合計数又は72人のいずれか多い数)を超えて障がい者を雇用している場合は、「報奨金」が支給されます。その金額は、一定数を超えて雇用している障がい者の人数に21,000円を乗じて得た額です。

報奨金申請事業主であって、前年度に在宅就業障がい者又は在宅就業支援団体に対し仕事を発注し、業務の対価を支払った場合は、「在宅就業障害者特例報奨金」が支給されます。その金額は、17,000円に、事業主が当該年度に支払った在宅就業障がい者への支払い総額を評価額(35万円)で除して得た数を乗じて得た額です。

常用雇用労働者数調整金・報奨金額
100人超 一人プラスにつき月額27,000円
100人以下 一人プラスにつき月額21,000円

それぞれの申請期限は、調整金については毎年4月1日から5月15日まで、報奨金については毎年4月1日から7月31日までです。

助成金について

各種の助成金が設けられていますが、たとえば、「特定求職者雇用開発助成金」は、障がい者等の就職困難者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して交付される助成金です。

重度障がい者等を除く身体・知的障がい者を雇用する場合、合計120万円(中小企業事業主の場合)あるいは50万円(その他の事業主の場合)が交付されます。
詳しくは厚生労働省のページをご覧ください

障がい者の雇用状況と2018年(平成30年)の法改正

それでは、実際の障がい者雇用率と、今後の法改正について見ていきます。

民間企業の障がい者雇用率の現状

民間企業(45.5人以上規模の企業)に雇用されている障がい者の数は 560,608.5人(※1)で過去最高を記録しました。
ままた、実雇用率も、過去最高の2.11%、法定雇用率達成企業の割合は48.0%でした。ただし、中小企業については実雇用率が低い傾向が見られ、1,000人以上の民間企業で2.31%である一方、45.5~100人未満の民間企業では1.71%にとどまっています。

(※1)この雇用者数は、短時間労働者以外の重度身体障がい者及び重度知的障がい者については法律上、1人を2人に相当するものとして、重度以外の身体障がい者及び知的障がい者並びに精神障がい者である短時間労働者については法律上、1人を0.5人に相当するものとして算出されるものです

法定雇用率達成企業の割合(民間企業) 企業規模別チャレンジド実雇用率(民間企業)

※厚生労働省「令和元年 障がい者雇用状況の集計結果」より

2018年(平成30年)施行の改正障害者雇用促進法で何が変わるの?

改正された「障害者雇用促進法」が2018年(平成30年)4月1日に施行されました。これに基づき、法定雇用率の算定基礎の対象に精神障がい者が追加されます。
これにより、法定雇用率が従来よりも引き上げられることが予定されています。
ただし、施行後5年間(2023年(平成35年)3月31日まで)は、緩和措置として、法定雇用率を本来の計算式で算定した率よりも低くすることが可能とされています。

(1)障害者差別解消法

同法のほかに、2016年(平成28年)4月、「障害者差別解消法」が施行されています。「障害者差別解消法」も、「障害者雇用促進法」と同じく、前述の共生社会を実現しようという考え方に基づくものです。

これまで、いわゆる差別として考えられてきたものは、たとえば盲導犬を連れた障がい者の入店拒否などの障がいを理由とする排除や制限(直接差別)でした。
しかし、「障害者差別解消法」はこの直接差別を禁止するだけでなく、障がい者に対して合理的な配慮をしないことも差別に当たるとして禁止しています。

つまり、事業者に対して、単に直接差別をしないだけでなく、障がい者が生活するにあたってのハードルを取り除くよう、合理的な配慮をするよう努力する義務を課しました。合理的な配慮の内容としては、「店舗に設備(スロープなど)を設置すること」、「介助者などによる手助けをする体制を整えること」などが考えられます。

事業者は、その雇用している労働者である内部の障がい者に対しても、利用者である外部の障がい者に対しても合理的な配慮をする義務を負うことになりました。

(2)法定雇用率の算定基礎の対象に、精神障がい者が追加されます

前述のとおり、2018年(平成30年)4月1日より、法定雇用率の算定基礎の対象に精神障がい者が追加されました。

その結果、法定雇用率は、身体障がい者、知的障がい者及び精神障がい者である常用労働者の数に失業している身体障がい者、知的障がい者及び精神障がい者の数を加算した数値を、常用労働者数から除外率相当労働者数を減じ、失業者数を加算した数値で除した割合で算出されることになります。

法定雇用率の算定式

(3)法定雇用率引き上げ

法定雇用率の引き上げについては経済界を中心に、「現行の納付金は一律に額が設定されていることから、雇用率達成に向けた企業努力が必ずしも反映されていない」など、引き上げのための方策を求める慎重な意見もあります。

しかし、2013年4月に法定雇用率が2.0%に引き上げられてから2018年で5年が経過し社会の受入れ体制が整備されつつあるといえること、2020年には東京オリンピック・パラリンピックの開催が予定され、経済の活性化とともに障がい者雇用に対する理解がより広まることが期待されることから、引き上げが予定されています。

2017年7月時点では、新算定基準によれば法定雇用率は2.421%となるところ、労働政策審議会は、民間事業主について、緩和措置により段階的に2.3%に引き上げること(2018年(平成30年)4月1日から2.2%、3年を経過する日より前に2.3%)を厚生労働大臣に対し答申しました。



法定雇用率の引上げにより、企業において人事を担当される皆さまにとって障がい者雇用について積極的に取り組む必要性がより高まることが予想されます。

また、そればかりでなく、障がい者にとって働きやすい職場は、実は健常者にとっても働きやすい職場であるとの指摘があります。例えば、それまであうんの呼吸で進めていた仕事を障がい者にわかりやすい形に図式化したところ、健常者のミスも減ったという事例も出ています。

さらに、日本は世界で最も速いスピードで少子高齢化が進んでおり、労働力確保の観点から段階的に雇用年齢の上限が上げられていくことが想定されます。人は老いにより身体に何らかの障がいを持つものですので、高齢化社会は障がい者の急増する社会でもあるのです。したがって、障がい者にとって働きやすい職場は今後ますます増加する高齢の労働者にとっても働きやすい職場といえます。

みずほコーポレート銀行の試算によれば、2025年の高齢者向け市場の規模は大きく拡大し、日本だけで100兆円規模に達するとされています。拡大する高齢者向け市場に対応する観点からも、今後は障がい者の意見を聴くことがますます求められることになったといえ、その意味で障がい者を雇用するメリットもあります。

コンプライアンスの観点だけでなく、健常者にとっても働きやすい職場環境の整備、優秀な高齢者人材の確保、拡大する高齢者向け市場への対応などの観点からも障がい者雇用について積極的に取り組む意味が生まれつつあるといえるでしょう。

ライタープロフィール

合同会社アイディペンデント
CEO篠原あかね/CLO(最高法務責任者)南部弘樹

篠原あかね(写真左):合同会社アイディペンデントCEO、スマートコミュニケーションズ(株)代表取締役。障がい者アイデアを活用した企業支援活動を展開。新商品開発や特許取得を支援し障がい者の自立を促す。
南部弘樹(写真右):合同会社アイディペンデントCLO(最高法務責任者)、法律事務所アイディペンデント弁護士、産業カウンセラー。障がい者支援、知的財産保護に精通。企業のみならずNPO法務まで幅広く活動中。
スマートコミュニケーションズ(株)合同会社アイディペンデントFacebook

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