派遣法改正で変わったことを分かりやすくまとめました
2015年9月30日に施行された労働者派遣法の改正について、ポイントをまとめました。また、派遣元(派遣会社)、派遣先(就業先)、派遣労働者(派遣スタッフ、派遣社員)、それぞれの立場から、改正の意味するところを解説していきます。
労働者派遣法改正法の内容とポイント
労働者派遣法は、労働力の需給の適正な調整を図るため、労働者派遣事業の適正な運営の確保、派遣労働者の保護等の観点から1986年に施行された法律です。これまで数度にわたる改正を経て、2015年9月30日に改正法が施行されました。
厚生労働省がまとめた概要では、下記が改正法のポイントとされています。
それでは、それぞれについて解説していきます。
【1】キャリアアップ措置
今回の法改正では、派遣労働者のキャリアアップを目的とし、派遣元(派遣会社)は、自社の派遣労働者に対し、教育訓練を実施することが義務付けられました。また、派遣労働者は希望すればキャリア・コンサルティングを受ける機会が得られます。
これにより派遣先(就業先)は、派遣元から求めがあった場合には、就業する派遣労働者に対し、教育訓練を受けられるよう可能な限り協力をすることが求められます。
また、派遣元(派遣会社)には、
- ・自社の派遣労働者が就業中に必要な技能や知識を習得できるように、教育訓練を計画的に実施する
- ・希望する派遣労働者が自身のキャリアを相談できる「キャリア・コンサルティング」を行う
の2点が義務付けられました。
【2】労働者派遣の期間制限の見直し
これまで、研究開発や通訳など定められた特定の業務に従事する「政令26業務(専門26業務)」には派遣期間制限がなく、一般的な人材派遣業務である「自由化業務」には原則1年、最長3年という制限が設けられていました。
法改正後は、業務による期間の区分はなくなり、すべての業務で次の2種類の制限が適用されます。
- I. 派遣先事業所単位の期間制限
- 派遣先の同一の事業所に対して適用されます。派遣労働者を受け入れられる期間は、原則3年が限度とされます。
これにより派遣先(就業先)は、 3年を超えて派遣労働者を受け入れる場合、過半数労働組合等への意見聴取手続きが必要です。 - II. 派遣労働者個人単位の期間制限
- 派遣労働者に対して適用されます。同一の派遣労働者を派遣先の事業所における同一の組織単位に対し派遣できる期間は、3年が限度です。
これにより派遣元(派遣会社)には、 同一の組織単位に継続して3年間派遣される見込みがある場合、派遣終了後の雇用を継続させるための措置を講じることが、義務付けられています(雇用安定措置の実施)。該当する派遣社員の方は、派遣元に相談をしてみましょう。
「事業所」、「組織単位」の定義
工場や、事務所、店舗など、場所的に独立しているものや、いわゆる「課」や「グループ」などが想定されています。
事業所 | ・工場、事務所、店舗等、場所的に独立していること ・経営の単位として人事・経理・指導監督・働き方などがある程度 独立していること ・施設として一定期間継続するものであること などの観点から、実態に即して判断されます。 ※雇用保険の適用事業所に関する考え方と基本的には同一です。 |
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組織単位 | いわゆる「課」や「グループ」など、 ・業務としての類似性、関連性があり ・組織の長が業務配分、労務管理上の指揮監督権限を有する ものとして、実態に即して判断されます。 |
期間制限の例外-「無期雇用」や「60歳以上」など
60歳以上の派遣労働者はこの項で説明した期間制限の対象外です。
また、派遣元(派遣会社)との契約を有期雇用から無期雇用へ転換されている派遣労働者も、期間制限の例外となります。無期雇用の派遣労働は欧州を中心に、派遣労働者の働き方の一つとして受け入れ始めており、日本でも今後増えていくことが予想されます。
- ・派遣元事業主に無期雇用される派遣労働者を派遣する場合
- ・60 歳以上の派遣労働者を派遣する場合
- ・終期が明確な有期プロジェクト業務に派遣労働者を派遣する場合
- ・日数限定業務(1か月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10 日以下であるもの)に派遣労働者を派遣する場合
- ・産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する労働者の業務に派遣労働者を派遣する場合
派遣期間制限については、経過処置として、施行日時点(2015年9月30日)ですでに締結されている労働者派遣契約については、その労働者派遣契約が終了するまで、改正前の法律の期間制限が適用される、としています。該当する方は、自分の派遣契約がいつ時点のもので、終了がいつなのか、一度確認してみてはいかがでしょうか?
【3】労働者派遣事業の許可制への一本化
これまで、派遣事業者はその特性によって、一般労働者派遣事業は許可制、特定労働者派遣事業は届出制としていましたが、法改正後は派遣事業の健全化を目指し、新たな許可基準による許可制に一本化されました。新たな許可基準の中には、上の項でも説明した、派遣労働者のキャリア形成支援制度を有すること、などが追加されました。
これにより、派遣先(就業先)は、法令順守の健全な派遣会社の中から、派遣社員を受け入れられるようになりました。
また、派遣労働者は、許可要件にある「キャリア形成支援制度が義務化」により、全ての派遣会社でキャリア形成支援が受けられるようになりました。
【4】均衡待遇の推進
派遣労働者と、派遣先(就労先)で同種の業務に従事する労働者の待遇の均衡を図るため、それぞれ新たな責務が課されました。
これにより派遣元(就業先)は、改正前より義務のあった「均衡を考慮した待遇の確保」に加え、派遣元(派遣会社)は、派遣労働者から求めがあった場合、
- ・賃金水準の決定
- ・教育訓練の実施
- ・福利厚生の実施
において、派遣社員と派遣先(就業先)で同種の業務に従事する労働者の待遇の均衡を図るために考慮した内容を説明する義務が課せられます。
また、派遣先(就業先)は、派遣元から求めがあった場合、以下のいずれかの情報を提供する配慮義務が課されます。
- ・派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者の賃金水準
- ・派遣労働者と同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準(賃金相場)
- ・派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者の募集時の求人条件
さらに、派遣先の労働者が利用する「給食施設」、「休憩室」、「更衣室」の福利厚生施設については、派遣労働者に対しても利用の機会を与える配慮が必要となりました。
【5】労働契約申込みみなし制度
平成 24 年労働者派遣法改正法に基づき平成 27 年 10 月1日から施行された制度です。 派遣先(就業先)が次に掲げる違法派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先が派遣労働者に対して、その派遣労働者の派遣元(派遣会社)における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなされます。
労働契約申込みみなし制度の対象となる違法行為
- I. 労働者派遣の禁止業務に従事させた場合
- II. 無許可の事業主から労働者派遣を受け入れられた場合
- III. 期間制限に違反して労働者派遣を受け入れた場合
- IV. いわゆる偽装請負の場合
つまり、派遣労働者が、実際に働く派遣先(就業先)で、上で挙げた違法行為があった場合、その時点で派遣労働者が派遣元(派遣会社)と交わしている労働条件(概ね給与を意味)と同一の労働条件の労働契約(直接雇用)を、就業先の意志とは関係なく、自動的に申し込んだとみなされ、派遣労働者の承諾のみで派遣先(就業先)との雇用契約が成立する、という内容です。
その他の改正ポイントをご紹介
- I. 派遣元事業者が講ずべき措置
- 派遣契約について派遣社員ごとに作成する「派遣元管理台帳」の記載事項に「雇用安定措置」や「教育訓練」などが追加され、記録して管理することが義務付けられました。
- II. 派遣先が講ずべき措置
- 派遣先管理台帳の記載事項に「業務内での計画的な OJT の教育訓練や業務外の教育訓練」などが追加されました。また、派遣労働者の雇用安定措置として、派遣先の募集情報の提供義務も加えられました。これにより、該当の派遣労働者に対し、当該派遣労働者に募集資格がないことが明白である場合を除き、募集情報を知らせなくてはいけません。
「派遣元事業者が講ずべき措置」、「派遣先が講ずべき措置」は厚生労働省のページでも一般公開されており、誰でも閲覧することが可能です。下のリンクからご覧<ください。
厚生労働省「労働者派遣事業関係業務取扱要領(平成28年4月1日以降)」ページ内
派遣で働く人からのよくある質問
ここからは、派遣労働者から寄せられる質問についてみていきましょう。
「今の職場でいつまで働けるの?派遣先を変えなければいけないのですか?」
これまでもお話したように、今回の法改正で政令26業務と自由化業務の区別がなくなり、派遣期間制限も個人単位へと変わりました。
そのため、「同一組織単位」であれば、新しい派遣法での就業可能な期間は最長3年間です。3年を過ぎた場合は、同じ就業先の別の組織単位(例えば、別の部署や課)での就業や、派遣先を変える必要があります。
「派遣というスタイルで働き続ける方法はありますか?」
「労働契約法」では、有期雇用の派遣スタッフに方でも、2013年4月1日以降の契約を更新継続して5年を超えた場合で、なおかつ派遣スタッフの方が無期の雇用契約を希望した場合には、無期の雇用契約へ転換できるルールがあります。
3年を超えて同じ職場で働きたいと考え、無期の雇用契約を希望する派遣ワーカーは、有期から無期契約への転換を検討する派遣会社も増えていますので、相談してみてはいかがでしょう?
いかがでしたか。 日本では派遣という働き方は、あくまでも「臨時的なもの」「一時的なもの」を原則として法律が制定されています。そのため、新しい制度でも、企業が派遣社員を常用的な代替とすることを防ぎ、派遣労働者の雇用の安定、キャリアアップを図るための改正が行われています。 その視点から、本改正労働法を見てみると、より分かりやすいかもしれません。
キャリアHUB編集部
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