Employer brand research 2019
受賞企業インタビュー

今回、総合1位、2位を受賞された企業へ、これからの日本において「より良く働く」とは?「より良く働ける環境」とは?をテーマに「いま最も働きたいと思われている企業」ならではの取り組み等を取材させていただきました。

総合2位

味の素(株)

執行役員人事部長

松澤 巧

「味の素グループWay」で企業の価値観を明文化。採用と企業価値の向上をリンクさせた味の素の人財戦略とは?

思わず働きたくなる魅力ある企業の要素として、今春から始動する働き方改革は重要な要素を担っている。そんな中、世界最大級の総合人材サービス「ランスタッド」が働く人、家族、求職者にとって真に魅力ある企業を推奨し、世界基準の調査を実施。就業先として魅力度が高い企業を表彰する取り組みが「エンプロイヤーブランド・リサーチ ~いま最も働きたい企業 2019~」だ。

同アワードは、2000年から世界各国で始動。今年で8回目となる日本のアワードで受賞となった企業を紹介していきたい。働きたい企業として今も昔も定評のある味の素では、働く人を惹きつけるさまざまな取り組みを実施している。同社執行役員人事部長の松澤巧氏に、人事戦略について話を伺った。

取材・文:庄司真美 写真:松島徹

味の素らしい社風とは?

今年110周年を迎える味の素は、世界初のうま味調味料のメーカーとして1909年に創業。近年は、うま味調味料を主軸に食品や美容をはじめ、アミノサイエンスや電子部品にも事業を拡張している。

グルタミン酸ナトリウムを主成分とした調味料の発見は日本の10大発明と位置づけられ、今や世界の公式用語としても“UMAMI”は認知されている。

味の素 執行役員人事部長の松澤巧氏。

――働き方改革関連法案の施行にあたり、今後の経営ビジョンは?

松澤:社員の成長を通じて、会社の成長や企業価値の向上につなげることが、一番大きな戦略となります。人財マネジメントに関しても、個人が成長し、それが会社の成長にもつながり、また新しい仕事やチャレンジの場が広がって、さらに個人が成長していく循環を構築することに注力しています。

――社員に求める具体的な人となりについてはいかがでしょうか?

松澤:スキルや能力が高いことは大切です。それだけでなく、弊社の価値観を明文化した「味の素グループWay」に共感いただけるかどうかが重要です。その中で言えば、「新しい価値の創造」や「開拓者精神」「社会への貢献」「人を大切にする」といった価値観に共感し、「人が喜ぶためにがんばるのが幸せ」「世の中が一歩前進するために貢献したい」「新しいことをするのが好き」という人は、同じ方向に向かって走りやすいと思います。

それは、昔からある“味の素らしさ”とか、「こういう人は味の素に向いているね」といった、私たちがなんとなく認識していたものを言語化したものだと考えています。また、私たちは採用の場を「対等で真剣なコミュニケーションの場」と捉えています。本質的に大事なのは、その人が何に動かされ、何のために働きたいと思っているのか?にあると考えているからです。

繰り返し面接を重ね、人の根本の価値観にまで遡っていろいろな話を聞かせていただき、この人だったら味の素で一緒にがんばっていけそうだなと思えるかどうかを確認しています。

――面接ではかなり深い話をするのですね。今回、「エンプロイヤーブランド・リサーチ ~いま最も働きたい企業 2019~」の受賞を受けて、どのあたりが評価されたと自負していますか?

松澤:弊社では、2017年秋から世界中で現在の「味の素グループグローバルブランドロゴ」(Ajinomoto Group Global Brand Logo)に切り替えたのを機に、事業活動だけでなく、働き方改革をはじめ、健康やダイバーシティの取り組みといったさまざまなものをブランドに結び付けていく方針を決めました。

「味の素」の社名やブランドロゴを見た時に、「この会社は世界中の人々の食や健康、栄養に貢献している会社だよね」と多くの人に連想してもらえるような会社を目指すため、1年間、いろいろな取り組みをしてきました。その成果として、企業のブランド価値が認められたことは大変光栄に思っています。

同社内にあるカフェテリアは、打ち合わせスペースや多目的スペースとして活用されている。

働き方改革については、今は働く時間を短くした上で働く時間の質を高める段階に来ていて、いかに密度も生産性も高い仕事をするかという本質的な取り組みをしています。2018年からは本社を中心にフリーアドレスやペーパーレスの取り組みもかなり進んでいます。これにより、使用する書類の量は、1割から2割程度に減りました。会議では事前に書類をデータでやりとりし、みんなが端末を持ち寄って打ち合わせするスタイルが浸透しています。

また、共有フォルダに必要な書類を集約することで、どこにいても必要な情報にアクセスできるので、会社に来なくてもいい状態を作ることができました。会議では、参加者の1人くらいはオンラインで外から参加することもよくあることです。今後はデジタル・トランスフォーメーションを意識して、どれだけムダな仕事をなくし、人間にしかできない仕事にいかに集中するかということが、働く時間の質を高めるポイントだと考えています。

労働時間を減らし、給料を上げる大胆な施策で残業問題を解消

――味の素らしい独自の取り組みはありますか?

松澤:2017年度からの働き方改革の中で、労働時間がこれまで7時間35分だったのが、20分短縮されました。フレックス勤務で、標準的な始業が8時15分からで、終業が16時30分となっています。同時に残業代が減少することが働き方改革の妨げにならないように、先行投資として給料を一律5000円ずつ上げたほか、リモートワークでも使えるノートPCや携帯電話といったデジタルデバイスを社員全員に支給しました。

――終業後、社員のみなさんはどんなことをして過ごしているのですか?

松澤:早い時間から飲みに行く人もいますが、ビジネススクールに通うなど、自己投資をする人の数は確実に増えました。もちろん、育児を含めて家族との時間に使う人、自身の健康増進に使う人などさまざまです。働く人それぞれの考え方、ライフステージに応じて選べるのがベストだと考えています。

――残業問題は日本企業の多くが抱えていますが、御社でもそれは課題としてあったのですか?

松澤:部署にもよりますが、元々残業の多いところは多かったです。特に出張が多い営業部門では、時間管理ではなく日当での給与スタイルでしたが、外での商談や移動も労働時間としてカウントする方針に切り替えました。

すべての仕事に費やす時間は労働時間とみなし、総実労働時間1800時間を目指しましたが、始めたときはかなりギャップがありました。でも、2018年度は、管理職を除く社員の平均は、2015年から比較すると150時間減少し、約1800時間に着地しています。管理職に関しては、まだそれより何十時間か上回り、人によって波があるので、1900時間を超えている人たちをどれだけ目標の1800時間に近づけられるかが、これからの課題です。

また、人財の健康があってこそ活躍できるという考えのもと、社員の全員健康面談を実施していて、3年連続、経済産業省が推進する「健康経営銘柄」を受賞することができました。企業コンセプトとして、人の健康を願う企業である以上、我々も健康であるべきという方針をリンクさせたいと考えています。

――数々の働きやすさへの取り組みを通じ、社員の反応はいかがですか?

松澤:働き方改革を実施するにあたり、当初はいろいろな不安の声が上がりました。でも、実際にやってみると、明らかに帰る時間が早くなったことはとても評判が良かったです。今までは家と会社の往復で1日が終わる生活スタイルだったのが、今は夕方をいかに活用するかということで、家族から感謝されたり、自分のために時間を使えるようになったりするなど、自由度が増したという声が多く上がっています。

ただし、働き方改革のそもそもの目的は、生き生きと働ける会社になることはもちろん、それがいかに会社の成長につながるかということで、さらに1人1人の働きがいや実感にまで結びつけることが趣旨ですので、その点が今後1〜2年の大きな課題です。

――その点は、各社がジレンマを抱えていますよね。最後に、御社で働く社員にとって、働きがいのある職場環境とはどのようなかたちが理想だと考えていますか?

松澤:働く時間や場所、環境は重要ですが、一番大事なことは、味の素の中で自分の能力や専門性を発揮し、会社全体の大きな方針にしっかり貢献していることです。その上で、社会の課題解決に自分の仕事がつながっていることを社員それぞれが実感することが重要であり、そんな職場環境を今、味の素では構築しているところです。

味の素HP

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