【プライド月間特別企画】虹色が消えたあとの、職場で。――理想と、社会と、私たちのあいだで

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2026/06/01

東京プライドという祭典は、私たちが「公平性(Equity)」について考え、祝福するための素晴らしい機会です。しかし、真に問われるべきは、その虹色が消えたあとの日常。イベントの喧騒が去ったあとの職場で、私たちがどうあるべきかではないでしょうか。

誠実な「関心」を持つこと。自分を知り、相手を知ることから始まるアライの歩み。

『ALLY アライになりたい』著者、調布・小金井LGBT&アライの会共同代表 小島 あゆみ氏

1. 「知る」ことから始まる、アライとしての歩み

私の原点は、高校時代の米国留学にあります。日本とは全く違う環境に無力感を抱いていた私を救ってくれたのは、一人の人間として関心を持ち、歩み寄ってくれた人たちでした。その後(2001年)、当時のホストシスターから同性婚の報告を受けた際、最初は驚きましたが、かつての私を救ったのも誰かの温かな「関心」だったと思い至りました。彼女の人生をありのままに尊重し、並走していきたい。それが私の活動のベースになっています。
アライとは、完成された「正解」を持つ人のことではありません。私自身、最初は「理解したい」という言葉を使い、当事者から「理解なんてできない」と指摘されたことがあります。まずは知らないことがあると認め、知ろうとする。その誠実な姿勢こそが、アライの第一歩だと考えています。

2. 職場という「居場所」が持つ可能性

職場は、人の尊厳や達成感に関わる大切な「居場所」です。しかし、就活段階でトランスジェンダーの人たちが深刻な「うつ」に陥るケースも少なくありません。服装などの「見えない強制」が、アイデンティティを深く傷つけてしまうからです。
企業がこうした壁を取り払い、能力を正当に評価できる「当たり前の土壌」を整えることは、アライの視点からも重要です。誰もが属性を隠すことにエネルギーを使わず、安心して能力を発揮できる職場は、何物にも代えがたい安心の場になるはずです。

3. 「自分の弱さ」を認めることが、想像力になる

アライとして他者と向き合うとき、私自身の経験も指針になっています。米国でのマイノリティ経験や、社会構造の中で自分を抑えてきた葛藤......。そうした自らの「弱さ」や生きづらさを認め、自分事として捉えることが、他者の目に見えない背景への想像力に繋がると感じています。
今はスマホの普及で外部と繋がりやすくなったことは当事者にとっても大きなことですが、やはりリアルの職場で「ここに味方がいる」と可視化されている安心感は特別です。レインボーを模したアライステッカーのような小さな意思表示が、誰かの心を支えるきっかけになります。

結論:誠実な「関心」が、信頼の絆になる

人の背景や痛みは目に見えず、話を聞かなければ分かりません。だからこそ、相手に誠実な関心を持ち、自分事として想像してみる。周囲が自分を人として尊重し、信頼できる相手かどうかを静かに見ている当事者の存在を心にとめておくことが大事です。
一人ひとりが対等に相手を尊重し合う。そのシンプルな積み重ねの先に、誰もが属性を意識せずに自分らしくいられる「当たり前の日常」があるのではないでしょうか。

  • アライとしての歩みや、当事者・周囲のリアルな声をより深く知るための、小島あゆみ氏のご著書です。職場のDE&Iやアライの具体的な一歩を進めるヒントが詰まっています。
  • ・『ALLY アライになりたい』(かもがわ出版)
    ・『トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声』(かもがわ出版

善意の「ポーズ」より、共に勝つ「Win-Win」を。

エッセイスト、女装パフォーマー ブルボンヌ氏

1. 善意や義務感の先に、当事者が感じている「心の距離」

近年、法整備や社会的な要請により企業のDE&Iは加速しています。当事者としてその前進はうれしい反面、どこか冷ややかな視線を拭いきれないのも事実です。そこには「義務だから」「いい企業だと思われたいから」という、ポーズとしての善意が透けて見えることがあるからです。
特に30代以上の当事者は、「状況によって人はいくらでも変わりうる」という社会の脆さを身をもって知っています。悪意があるわけではないと思うからこそ、グラデーションのようにどこか疑念を持っているのがリアルな本音です。見栄えや義務感からくる善意は、かえって目に見えない壁を作ってしまうこともあるのです。

2. 資本主義のリアルとして語る「多様性の利益」

私は、多様性の推進を「道徳」ではなく、もっと地に足のついた「Win-Winのビジネス戦略」として語るべきだと考えています。資本主義社会において、企業が損をすることは続きません。お互いに学び合い、成長し、組織を大きくしていくという目的が、持続可能なエネルギーに繋がります。
かつて出版社で、「ビジュアル特集を組むなら女性」という固定観念が当たり前だった時代に、ゲイの編集者がその感性を活かして「イケメン特集」をいち早く成功させた例があります。多様な視点は、新たなアイデアを生み、利益へと繋がります。 自分の本当の姿を隠さず働ける環境は、社員の帰属意識を飛躍的に高め、パフォーマンスを最大化させます。全員がそれぞれの武器で最大のパワーを出し、共に勝つ。その実利こそが、人を動かす最も誠実な原動力になります。

(東京レインボープライド2024のステージにて(写真右)ブルボンヌ氏 )

3. 「多数派」をも救う、ジェンダーバイアスの解消

多様性への理解を深めることは、決して少数派への施しではありません。実は、多数派である男性たちを縛り付けているジェンダーバイアスをほぐすことにも直結しています。「常に上側にいなければならない」「弱さを見せてはいけない」という呪縛に苦しんでいるのは、他ならぬ多数派の男性たち自身ではないでしょうか。
少数者への優しい目線を持つことは、結果的にすべての人にとっての「生きづらさ」を解消することに繋がります。変化に懐疑的な層に対しても、「これはあなた自身の人生を楽にするための戦略でもあるんだ」と示すこと。それこそが、分断を生まないDE&Iの形です。

4. 「正義の振りかざし」ではなく「センス」を

アライを自認する方に意識してほしいのは、現場での「力の抜き方」です。職場の飲み会などで不適切な発言があった際、「その言い方は決めつけだよ!」と正義を振りかざして空気を悪くするのは、当事者も望んでいません。そうしたやり取りで生まれる小さな反発心の集合体が、今の世界にあるDE&Iへのバックラッシュ(揺り戻し)を生んでいる面もあるからです。
理想は、ピシャリと叱った後でしっかり笑いに持っていけるようなセンスです。 「それって属性関係なくない?」と柔らかく水を差し、険悪な対立にせず、みんなで面白く学んでいく。そんなコミュニケーションが、職場の空気を変えていきます。

(写真:LGBTQ+権利運動の起源となった「ストーンウォールの反乱」50周年(2019年)のNYプライドにて、ジャパンフロート(山車)に乗ってパレードに参加するブルボンヌ氏 )

結論:言葉が日常を作っていく

かつて「看護婦」と当たり前に呼ばれていたのが、いつの間にか「看護師」という言葉に置き換わり、自然に馴染んでいった。それと同じように、日常会話の中で「彼氏・彼女」という表現が自然に「パートナー」に置き換えられていったり、多様な家族の形が前提になったり。
言葉の力は偉大です。そうやって、最初は違和感があった言葉が、いつの間にかみんなの肌感覚に馴染み、気づかないうちに新しい日常になっていく。そんな少しずつ、でも確実な変化が積み重なっていくことが、私の理想です。

無知ゆえの「沈黙」が、一人の友人を遠ざけた。社内のアライとして、いま「To Know(よく知ること)」を掲げる理由。

ランスタッド HR Business Partner 矢野 泰正

1. 意気投合した友人と、決定的な溝を作った「15分間」

私のアライとしての原点は、30年以上前の苦い経験にあります。10代の頃、免許教習所で出会ったある友人と意気投合し、2カ月間ともに励まし合って試験に合格しました。しかし、喜びの中で、帰りの電車に揺られながら交換した彼の免許証に「女性」という文字を見た瞬間、私は動揺のあまり言葉を失ってしまったのです。
気まずい15分間の沈黙。電車を降りてから、彼は「自分はトランスジェンダーなんだ」と勇気を持って打ち明けてくれました。しかし、マイノリティーの存在を知らなかった当時の私にはその重さを受け止める器がなく、どう接していいか分からないまま、あんなに馬が合っていた彼との縁を自ら閉ざしてしまいました。「無知ゆえに大切な友人を傷つけ、失った」という後悔は、今も私の中に消えない痛みとして刻まれています。

2. コア・バリュー「To Know」が信頼の土壌を作る

その後、多様な環境でキャリアを積む中で、私は世の中に「唯一の正解」などないことを肌で感じてきました。今の私なら、迷わず「話してくれてありがとう」と伝え、彼を丸ごと受け入れられる確信があります。
アライとして大切なのは、完璧な正解を出すことではなく、相手の背景を「知ろう」とする誠実さです。ランスタッドがコア・バリューの一番目に掲げる「To Know(よく知ること)」は、まさに信頼の基盤です。相手を深く知ろうとすることは、個々の尊重に基づいた現場での対応力に繋がり、それが「公平性(Equity)」への第一歩になります。他者の経験を自分の中に丁寧に取り込む努力を、私たちは忘れてはならないのです。

(写真:社内イベントのバーベキューでメンバーと交流する矢野(中央) )

3. ランスタッドの独自性:従業員の「オーナーシップ」

多くの企業が「ダイバーシティ」を掲げますが、ランスタッドが他社と違うのは、従業員が「オーナーシップ」を持って活動している点です。会社から与えられた看板ではなく、社員が自発的にERG(従業員リソースグループ)を立ち上げ、ボトムアップで「誰もが居心地の良い環境」を議論し、行動に移しています。
人事として、私は評価の場で属性が語られることを断固として排除しています。重要なのは属性ではなく、「その人がどう組織に貢献しているか」という一点のみ。属性を隠すことにエネルギーを浪費せず、誰もが「自分らしく貢献できる」土壌を現場まで浸透させること。あの日大切な友人を失った後悔を抱く一人のアライとして の、私の使命です。

属性にエネルギーを使わない。オランダ流の「当たり前」を、日本の職場の新しい「日常」に。

ランスタッドCHRO ヨス・シュット

1. オランダの視点:制度は「透明なインフラ」であるべき

私の母国オランダは、2001年に世界で初めて同性婚を法的に認めた国です。その背景にあるのは、「個人の性的指向や家族の形は、その人の職務遂行能力や専門性と何ら関係がない」という、極めてシンプルかつ強固な共通認識です。 オランダにおいて、LGBTQ+に関連する福利厚生や権利は、もはや会社からの「特別な恩恵」とは見なされていません。それは道路や水道、あるいはインターネットのように、「そこにあって当たり前のインフラ」として社会に溶け込み、透明化しています。
このような環境では、誰もが自分の属性を声高に主張する必要もなければ、逆にそれを隠すためにエネルギーを浪費する必要もありません。「一人のプロフェッショナル」として、属性を意識せずに社会に受け入れられ、仕事に集中できる。この、属性が「意識されないこと」の自由こそが、私たちが目指すべき心理的安全性の高い状態だと考えています。

2. 日本の現状と課題:過度な「特別視」という壁

一方で、日本でHRを統括する中で、ある種の違和感を覚えることもあります。日本のビジネス現場では、LGBTQ+支援がいまだに「特別な配慮」や「CSR(社会貢献)」という、日常とは切り離された文脈で語られがちです。 ここには一種のジレンマが存在します。当事者を腫れ物に触るように過度に特別視する「配慮」も、あるいは「社内に当事者はいない」と思い込む無関心も、本質的には同じ壁を作っています。どちらの状態も、当事者が「属性を意識せずにベストを尽くす」ことを妨げ、目に見えない心理的な距離を生んでしまうのです。

3. ランスタッドが目指す「日本発」の公平性(Equity)

私は常々、「国の制度をすぐに変えることは難しいが、私たちが直接関わる人々の意識、そして『企業』というコミュニティは、今日からでも変えられる」と語っています。 ランスタッドが追求するのは、画一的な「平等(Equality)」ではなく、一人ひとりの異なる背景やニーズに最適化された「公平(Equity)」な機会提供です。

(Reproduced with permission of the Robert Wood Johnson Foundation, Princeton, N.J.)

例えば、育休復帰後のポジション保証や同性パートナーシップへの対応といった制度を「標準化」すること。制度という確かなインフラを整えることで、日本特有の属性に対する無意識のバイアスを少しずつ、着実に解かしていきたいと考えています。

結論:属性にエネルギーを使わない文化を

私たちが目指す最終的なゴールは、誰もが「自分はここにいていいのだ(Belonging)」という確信を持てる文化の構築です。 虹色が消えたあとの日常の職場で、すべての社員が「自分はどう扱われるだろうか」と属性を意識することに貴重なエネルギーを使う必要がなくなること。そのエネルギーのすべてを、自分自身の成長や創造性のために注げる。そんな心理的安全性の高い環境を、私たちはステークホルダーの皆様と共に築き上げていきたいと願っています。

ランスタッドは「世界で最も公平で専門性を備えた人材会社」を目指し、いかなる差別も許容しない職場づくりを徹底しています。 ジェンダー平等、障がい者の活躍推進、性的マイノリティのインクルージョンなど、誰もが可能性を発揮し、自分らしくいられる職場や社会を実現するため取り組みを推進しています。

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