interviewトランスジェンダー社員が語る「私らしく働く」ということ - ランスタッドでの経験と社会への願い

鈴木 一(仮名)
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ランスタッドで働くトランスジェンダー(transgender)当事者社員にインタビューを行いました!昨今、LGBTQの中でも特にトランスジェンダーの方に対する誤情報や偏見、ヘイトスピーチなどがネットを中心に多く見られます。そのような中で、私たちと一緒に働く社員の方の実際のストーリーを多くの人に知ってもらいたいと思い、当事者社員である鈴木さん(仮名)にお願いして今回のインタビューを行いました。
世界で最も公平で専門的な人材サービス会社を目指し、トランスジェンダーの方の就職もサポートするランスタッドとして、これからもインクルージョン施策を積極的に行っていきます。当事者の方の実像を知るため、ぜひお読みください!

ーまず鈴木さんについて教えてください。
(鈴木)性的マイノリティ当事者、トランスジェンダー(FtM)*1です。出生時の性別は女性。社会生活は男性として生活しています。セクシュアリティはノンバイナリー*2に近いかと思います。あまり「男」とか「女」というくっきりした枠に当てはまらない感じですかね…。
ーこれまでの鈴木さんの子どもの頃~現在までの経歴について、詳しく伺いたいです。
(鈴木)母と祖母が医療関係者だったこともあり、幼少期から自分の性別に関する教育はけっこうしっかり教え込まれていたんじゃないかと思います。なので、小さいころは教えられるままに「女の子らしくするべきなんだ!」と思い込んでいました。
学生のころになると、性別的な面でクラスの女子との感覚の違いがあるとは気づいていたのですが、20代前半までは女性として仕事に就いていました。でも、社会に出ると周囲が求める行動と自分がしたいことがどんどん合わなくなって、原因を知りたくてネット検索していたところ、「性同一性障害*3」の情報にたどり着き、治療を始めました。
ホルモン療法を継続しながら男性として就業し、約2年前に性別適合手術をしました。現在は、裁判所に手続きすれば戸籍上の性別も変更が可能な状態です。
ーパートナーとお子さんがいらっしゃるとのことですが、お二人との生活についてもよろしければ教えてください。
(鈴木)女性のパートナーと、その息子がいます。パートナーは、初対面の時に性別不合であり治療中である旨は伝えたのですが、当時の感想を聞いたところ、「すごい細いちっちゃい男の人」と思ったそうです(笑)
手術前から私のアイデンティティについては知っていますが、術前・術後変わらずの対応で大切にしてくれています。子供とはお父さん代行のような位置づけで仲良く過ごしていますが、小学生に対して私のアイデンティティや身体のことをどう説明するべきか、現在悩み中です。

ー仕事上やそれ以外で経験した苦労や困難について、お聞きしてもよろしいでしょうか。
(鈴木)ランキング形式で過去のエピソードをご紹介します。
3位:「パパは入らないんですか…?」
自宅の風呂が壊れてしまって、近所の温泉を利用することになったのですが、当時はまだ手術をしていなかったため私だけ入れず、受付前でパートナーと子供を見送ったところ受付の方に不思議そうな顔で言われました。正直かつ端的に「私は温泉には入れないので。」と答えておきました(笑)*4
入浴中の子供の世話を任せきりにすることになってしまったので、パートナーは大変だったと思います。手術をする前は特にお風呂とプールは難しいですね。
子供の入浴の付き添いをしたくてもできなかったりして。そのせいで行楽などの外出をあきらめることもありますし、温泉施設での宿泊は部屋風呂付きでなければ難しいので、仕方ないのですが必要以上に贅沢に…(笑)
2位:「うちのスタッフは性別のことなんかで差別するようなヤツいないからさ!一緒に働くなら、正直にみんなに話してほしいんだよね!!」
飲食店のアルバイトに応募したら、面接のとき店長さんに爽やかな笑顔で言われました。そう思ってんのはあなただけかもしれないよ!!(笑)と盛大に心の中でツッコミを入れましたね。
全く悪気もなにも無くて、それだけ風通しの良いお店だったんだとは思いますが、お店を混乱させたとしても責任がとれるわけもないので辞退させていただきました。そもそも面接官にさえ自分の性別のことをバラさないでいたいのが正直なところだったので、職場のスタッフ全体に公表するのは非常にハードルが高いです。
1位:「女性専用車両に乗りましょう」
昔のことですが当時の職場の先輩に、電車で一緒に移動するときに言われました。職場では支店の全員に自分のアイデンティティついて既にカミングアウトしていましたが、その先輩はそれでも私が女性だという意識があったのだと思います。
その時私は既にホルモン療法でほとんど見た目が男性になっていたので、「ちょっと先輩!前の女性がびっくりしてるがな!!」とツッコミを入れそうでした(笑) 公共の場での突然のアウティング*5は、当事者だけでなく周囲の人たちにも影響があるので、お気を付けいただければ幸いです。
ー鈴木さんのアイデンティティに関しての対応で、嬉しかったことはありますか?
(鈴木)ランスタッドの採用面接のとき、採用マネージャーと人事の方が「どこまで開示するか、あなたにすべてお任せします。」とこちらの意思を一番に尊重してくれたのはとても安心できました。LGBTQのERGで仲良くなったメンバーと、お互いのアイデンティティについてぶっちゃけトークができたのも嬉しかったですね。
ー新しい環境は誰でも緊張すると思いますが、ランスタッドに入社する時、どのようなことが不安でしたか?
(鈴木)面接官の方がLGBTQに対してどこまで理解して受容してくださるのかが不安でした。そもそも履歴書に書くのも不安でしたね(笑)
性別不合の一言を書くだけで、だいたいどこの会社も書類選考の難易度が急に上がると感じています。大企業だし会社としては何かしら受け入れてくれる体制はあるだろうと思ってはいたんですが、やっぱり理解や共感というのは、どうしても人それぞれになってしまうものなので、かなり緊張していました。
ー会社や社会が性的マイノリティ当事者にとって働きやすい環境になるためには、何ができるでしょうか。
(鈴木)いかに理解者の方が周囲にたくさん居るかが、とても重要だと思います。さきほどお答えした通り、理解度や共感や受容がどれくらいできるのかは人それぞれで、そこは仕方ないのですが、理解者がたくさん居てくれれば、困ったときに正直に相談がしやすくなりますし、安心感もあり、働きやすい環境になると思います。
また、理解者の方には可能な範囲でLGBTQアライであることが分かるようにしていただけると、大変安心です。

ー本日はありがとうございました。インタビューの最後に何かお伝えしたいことはあるでしょうか。
(鈴木)今回は貴重な機会をいただき、ありがとうございました。ランスタッドはLGBTQに対して理解度の高い企業だと思います。今後も、当事者だけでなく周囲で一緒に仕事や生活をする方々のお役に立ちたいと強く思っています。
*1 生まれた時に割り当てられた性別と、自身で認識する性(ジェンダーアイデンティティ)が一致していない方のこと。FtMは出生時に女性(Female)を割り当てられたが、男性(Male)として生活している方を指す。
*2 自分の性自認(=体の性ではなく、自分で認識している自分の性)が男性・女性という性別のどちらにもはっきりと当てはまらない、または当てはめたくない、という方を指す。
*3 性自認と身体の性とが一致しないために性別違和感を持つトランスジェンダー当事者が医療施設を受診した際に、かつて「性同一性障害」という診断名が使用されていた。しかしトランスジェンダーの方のアイデンティティは障害ではないという認識から、現在は代わりに「性別不合」の名称が主に使用されている。
*4 公衆浴場は身体的な特徴で利用すべきと2023年に厚労省が改めて通知済みです。ネットを中心に誰でも性別に関係なく公衆浴場に入れるようになるという偽情報が氾濫しましたが、そのような事実はありません。(参考)
*5(性的マイノリティ当事者のアイデンティティを、故意か故意でないかにかかわらず、当人の許可なく誰かに知らせるような行為)