改正労働安全衛生法と紹介予定派遣

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2014/10/01

【労務・コンプライアンスノート】第24回: 改正労働安全衛生法と紹介予定派遣

先の第186回国会において労働安全衛生法の一部を改正する法律が成立しました。様々な改正内容があるのですが、大きく注目されているのは、労働者の心理的負担を把握するための検査(以下「ストレスチェック」といいます)制度の新設です。

以下、当該ストレスチェック制度の概要です。

1.事業者は、その雇用する労働者につき、医師・保健師等が実施するストレスチェックを受検させることが義務になります。

2.検査費用は事業者負担ですが、検査結果は直接労働者に通知され、労働者の同意なく事業者はその結果を知ることができません。

3.検査結果を受け取った労働者から、医師による面接を希望する旨の申出があった場合は、事業者は産業医等による面接を実施できるようにしなければなりません。

4.事業者は面接を行った産業医等から意見を聴取し、当該労働者について時間外労働の制限や従事する業務の変更など、必要な措置を講じなければなりません。

5.事業者は労働者が面接指導の申出をしたことや受診をしたことを理由に不利益な取扱をしてはなりません。

6.この内容は平成27年12月頃施行見込みです。


事業者はもともと定期健康診断を実施する義務がありますが、身体に加えてメンタル面にいてもチェックが義務化されたことになります。

中小企業の経営者にとっては、費用の面でも頭の痛い問題であると考えられます。

最近、入社前から精神疾患の既往歴があった労働者が、採用後の労働環境によって症状が悪化したとして精神障害の労災認定がなされる事案がありました。

もちろん、事業者は法に沿った適正な労働環境を整備する義務がありますが、一方で就職前から疾患を有していたことがわからず、配置された職場で対応ができないというケースもあります。

使用者も労働者も時間と費用を費やして労働契約に至ったのに、入社後の短い期間で出勤することができなくなるのはお互いに不幸なことです。

このような精神疾患の増加を背景に、このストレスチェック制度は新設されたのですが、同時に脚光を浴びているのが紹介予定派遣制度です。

紹介予定派遣制度は、最長6か月の労働者派遣期間を経て、最終的に派遣労働者が派遣先と労働契約を締結することを目指す制度です。

いわば、試用期間を派遣労働者として過ごす制度です。

派遣先は、派遣期間中に「この労働者は当社の社風にあっているか、従事する業務にストレスを感じていないか、人間関係は良好に築けるか」ということを知ることができますので、新卒者を採用したら直後にうつ病で出勤できなくなったという事態を避けることができます。

また、労働者側にとっても「親や学校から名のある会社だと就職をすすめられたが、実際に働いてみると自分にあっているのか、あっていないのか」ということが実感できます。

文部科学省の調査によれば、大卒者の31%、高卒者の39%が、新卒で就職した会社を3年以内に離職しています(数字は平成24年度調査結果より引用)。

民間調査会社の調査によれば、新卒者の転職の理由は「説明会で聞いていた内容と実際の仕事が違う」が66%で最も多く、次いで「会社の雰囲気にあわない」34%となっていることから、社会人経験がほとんどない若年層にはミスマッチ現象が多いと考えられます。

ミスマッチのためにストレスを感じ体調を崩すのは労働力不足の産業界全体にとっても不幸なことです。

労働者も使用者も、お互いに納得のいく相手と納得のいく労働条件で合意が得られるよう、紹介予定派遣制度を上手に活用したいものです。

(2014.10.1 掲載)


このコラムに関するお問い合わせ:
ランスタッド株式会社 コミュニケーション室
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Email: communication
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労務コンプライアンスノート本コラムでは、多様な人材を活用する企業人事部門の皆さまが、コンプライアンスに則った適正な形で人事・労務業務を遂行いただけるよう、ランスタッド顧問社労士がバラエティに富んだ労務トピックスを分かりやすく解説いたします。

特定社会保険労務士 田原 咲世 (たはら・さくよ)

1968年大阪生まれ。立命館大学修士課程修了後、旧労働省に入省し、労働基準法・男女雇用機会均等法・派遣法改正などを担当。2008年3月まで北海道労働局の需給調整指導官として活躍。2008年4月から札幌で北桜労働法務事務所を経営。特定社会保険労務士として、労働関係法を中心とした指導を行う。現ランスタッド、顧問社労士。

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