「チョット働きたい」を手軽に実現させたい

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
閉じる
2014/03/31

【労務・コンプライアンスノート】第21回: 「チョット働きたい」を手軽に実現させたい

◆引越が大変なことになっています

春の引越シーズンが到来しました。今年は年始から「人手が足りず引越事業者が悲鳴をあげる」という趣旨の報道がされていたので、みなさんもご承知のことでしょう。

引越の始業は短期間、ピークは3月28日頃から4月10日頃までの2週間程度です。このわずか2週間という短期ではありますが、非常に多くの労働力を集めることが必要になります。

ハローワークでは、現実問題として雇用保険被保険者の要件(週20時間以上の労働が31日以上継続)を満たさない求人票をなかなか取り扱ってくれません。 一方で、「毎日フルタイムで働くことは無理だけど、チョットだけなら働きたい」という求職者もいます。 

ハローワークが取り扱わない、しかし必要とされる求人、そしてチョット働きたい求職者がいる・・・この隙間を埋めたのは民間の事業者でした。しかし、「日雇い派遣の原則禁止」に伴い、労働契約期間が短い労働者派遣は例外を除き困難となりました。


◆零細事業者はアルバイトすら雇う体力がないでしょう

読者の中には、学生時代に引越のアルバイトをした経験から「バイト先で直接雇用し賃金を支払えばよいのでは」とお考えの方もあるでしょう。

「体力がある」事業者で、引越が比較的長期に続き、しかもその引越事業に同じ労働者を連日充てることができれば、かつての「学生引越アルバイト」のようなことも可能です。 

しかし、今、中小零細の引越事業者はそのような「体力」がありません。まず、求人にかかる費用がバカになりません。1回チラシを配布したくらいでは、応募ゼロということもまれではありません。

少子化で次々に大学や専門学校が統廃合されている地域では、学生はもちろん若い求職者じたいが非常に減少しています。

せっかく面接の時間を割き、書類を整えても仕事の当日、連絡がつかないというアルバイトも残念ながらいます。こんな時は、仕事に「穴をあける」わけにはいかず、既に雇用している正社員が時間外労働で対応します。

ご記憶にあるかと思いますが、大手引越事業者が昨年の引越シーズンに「時間外休日労働協定(36協定)」の上限を超えて正社員を長時間労働させたとして労働基準監督署から指導を受けました。法違反は許せないことですが、お客さまに「法違反になるので引越はしません」とは言えない現実が目にうかびます。

「引越は学歴も資格もいらない単純な作業」と思いこんでおられる方もいらっしゃるかもしれませんが、採用をしたらきちんと安全のための教育や、現場で必要な動作のための訓練も行う時間が必要です。それがたとえ1日だけの学生アルバイトでも、です。

この訓練にも、もちろん時間と費用がかかります。 ようやく仕事をしていただくと、もともと必要最小限にまで総務スタッフを減員している事業者では、臨時のアルバイトに賃金を支払うための事務負担が重くのしかかります。ましてや当日現金払などは途方もない負担になります。

中小零細事業者は大手引越会社が受注した引越を、さらに孫請けしたような状態で細切れに仕事が舞い込みますから、求人から採用、賃金、賃金を計算する事務経費まで極端に「食い詰めた」状態になっており、中には「今年の引越は忙しいだけで赤字だったが、今後も平常時の貨物の仕事をもらうためにやめられない」とつぶやく事業者も多数みられます。


◆規制の目的が現実とあっていないのなら

もし、引越荷役を専門にする派遣会社が、採用から教育訓練まで全て確実に行い、どんな現場にも「当日穴をあける」ことなく労働者派遣の役務を提供できれば、即戦力のスタッフとして事業者は非常に有り難いでしょう。

ひとつの派遣先引越事業者で例えば3日しかない引越事業も、別の派遣先と継続すれば数日間継続し、派遣労働者の所得も増えます。賃金は派遣元が支払うので、事業者は引越シーズンのピークを越えた4月末頃に請求される派遣料金を支払えばよく求人から訓練、「穴埋め」作業や賃金支払事務から解放されます。

本来は長期的な事業であるにもかかわらず、解雇を容易にするために雇用契約期間を短く区切ることを禁止するのは、雇用の安定という目的のためにも合理的でしょう。しかし、もともと非常に短い期間しか業務が存在しない、しかし労働者が多数求められる場合にまで「雇用の安定」をタテに「チョット働きたい」気持ちを阻止することはいかがなものでしょう。

ハローワークは責任をもってこれらの求人・求職を取り次いで頂きたいものです。求人票を公開し席に座って「待っている」だけではなく、確実に必要な人数を紹介し充足する責任があるのではないでしょうか?

それができないのが今の政府の考えなら、せめて時期、業種や職種に限定し、さらに教育の確実な実施等を義務づけて「チョット働きたい」を応援する仕組みが必要でしょう。

(2014.3.31 掲載)


このコラムに関するお問い合わせ:
ランスタッド株式会社 コミュニケーション室
Tel: +81(0)3-5275-1883
Email: communication
@randstad.co.jp

労務コンプライアンスノート本コラムでは、多様な人材を活用する企業人事部門の皆さまが、コンプライアンスに則った適正な形で人事・労務業務を遂行いただけるよう、ランスタッド顧問社労士がバラエティに富んだ労務トピックスを分かりやすく解説いたします。

特定社会保険労務士 田原 咲世 (たはら・さくよ)

1968年大阪生まれ。立命館大学修士課程修了後、旧労働省に入省し、労働基準法・男女雇用機会均等法・派遣法改正などを担当。2008年3月まで北海道労働局の需給調整指導官として活躍。2008年4月から札幌で北桜労働法務事務所を経営。特定社会保険労務士として、労働関係法を中心とした指導を行う。現ランスタッド、顧問社労士。

ログアウト