知られざるマイナンバー制度の実務

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2015/03/30

【労務・コンプライアンスノート】第26回:知られざるマイナンバー制度の実務

今回は、CMやポスターで広報が始まった社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)についてとりあげたいと思います。

マイナンバーは、国民に唯一無二の番号を付与する制度です。

このマイナンバーを活用することで、これまで税・社会保障などについて管轄官庁が異なるため同一人に適用する制度にもかかわらずその都度本人確認や所得の証明などを行わなければならなかった煩雑さが解消され、同一人の情報を管轄官庁を超えて共有し、スピーディかつ公正に制度を適用することができるようになります。

例えば、配偶者を国民年金第3号被保険者や健康保険の被扶養家族としたい場合には、これまで被扶養家族が市役所等に赴いて前年の所得証明書を取得したり現在の所得を証明する書類を提出することで年収を証明しなければなりませんでした。

しかし、マイナンバー制度が導入されると、夫婦のマイナンバーを記載した申請書を事業主が年金事務所や協会けんぽ窓口に提出すれば、年金事務所や協会けんぽがマイナンバーを利用して自治体の地方税務管轄部署に照会し、前年の配偶者の所得情報を得て被扶養家族に認定するかしないかを判断することができるようになり、配偶者が書類を提出する手間が省けます。

このようなメリットがあるマイナンバー制度ですが、実は事業主にとっては大きな事務負担が発生するデメリットが予想されています。

マイナンバー制度の導入に伴って、事業主は、その雇用する労働者(正社員/非正規社員の区別を問わず)のマイナンバーの情報を収集し、事業主が行う社会・労働保険の手続きや税務手続に必ずその番号を記載しなければならなくなります。

まず、事業主は労働者のマイナンバーを人事情報として収集することになりますが、これまでの基礎年金番号や雇用保険被保険者番号の収集と異なり、非常に厳密に情報を取り扱わなければならなくなります。

労働者のマイナンバー情報の収集の際には、【1】当該ナンバーが正しいかどうかの確認、【2】マイナンバーを提示した本人の確認、の2つの確認が必要です。

【1】のマイナンバー確認については、自治体から本人に発行されたマイナンバー通知カードを提示していただく等により番号に間違いがないかどうかを確認することになります。
【2】の本人確認は、その番号を付与された人が目の前の本人であるかどうかの確認となります。こちらは運転免許証の提示などにより、本人確認が必要になります。

そして、このようなマイナンバーの情報収集や、その情報を管理するパソコン端末は、他から隔離されたスペース(専用の個室や、パーテーションで仕切られた空間)でなければならず、書面に記載させて提出を求める場合は他人の目にふれないように封緘する必要があります。

さらに、マイナンバーは特定個人情報という位置づけになり、この情報の取扱についての社内マニュアルや情報漏洩に備える管理指針なども策定しなければなりません。

そして、マイナンバーは不当に所有してはならないことから、退職によって不要になった過去の手続書類に記載されたマイナンバーは保存年限が経過するとただちに処分しなければなりません。

つまり、「書類をファイルしたまま」「スキャンしてサーバーに保管したまま」という状態は許されず、保存年限を経過すると的確に抹消しなければならないということです。

なお、不当なマイナンバー所有については初回であっても懲役または罰金刑が適用される見込みになっていますので、情報を抹消するまて゜確実に管理することが求められます。

マイナンバー制度は「書類に記載する番号がひとつ増える」という簡単なイメージでいらした事業主さんはいらっしゃいませんか?

実は1人労働者を雇用するたびに、膨大な取得・保管・運用・抹消の実務が発生するのです。

短い期間だけ必要な需要に対して短期のアルバイトを雇用した場合は、賃金だけではなく上記のような膨大な実務が発生し、実は大きなコストを投じていることになります。

派遣労働者の場合は、派遣元事業主が責任をもって派遣労働者のマイナンバーを管理しておりますので、派遣先にこのような手間は発生しません。

季節的な変動によって臨時に必要な労働力については、マイナンバー管理のコストが発生しない派遣労働者を活用するということも、かしこいビジネス戦略かもしれません。

(2015.3.30 掲載)


このコラムに関するお問い合わせ:
ランスタッド株式会社 コミュニケーション室
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Email: communication
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労務コンプライアンスノート本コラムでは、多様な人材を活用する企業人事部門の皆さまが、コンプライアンスに則った適正な形で人事・労務業務を遂行いただけるよう、ランスタッド顧問社労士がバラエティに富んだ労務トピックスを分かりやすく解説いたします。

特定社会保険労務士 田原 咲世 (たはら・さくよ)

1968年大阪生まれ。立命館大学修士課程修了後、旧労働省に入省し、労働基準法・男女雇用機会均等法・派遣法改正などを担当。2008年3月まで北海道労働局の需給調整指導官として活躍。2008年4月から札幌で北桜労働法務事務所を経営。特定社会保険労務士として、労働関係法を中心とした指導を行う。現ランスタッド、顧問社労士。

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