派遣法さらなる改正は労働の現場に役に立つのか

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2013/12/27

【労務・コンプライアンスノート】第20回: 派遣法さらなる改正は労働の現場に役に立つのか

昨年12月25日、労働政策審議会(需給調整事業部会)は、今後の労働者派遣の在り方について厚生労働大臣への報告書骨子案をとりまとめました。審議会とは、大臣の諮問機で公益・労働者・使用者の三者を代表する委員で構成されています。

労働法はこの審議会に検討を依頼し意見を聴いてから法改正の手続をとることになっていますから、これから審議会がとりまとめる報告書には「将来の法改正」の内容が含まれていることになります。

報告書骨子案の一番の注目は「抵触日をどう考えるか」です。 というのも、派遣法は「臨時の需要」がある場合にのみ、例外として他人(派遣元事業主)が雇用している労働者を、借りるという理念を基礎に立法化した法律だからです。

この「臨時の需要」でなくても派遣労働者をどんどん活用できるとなると、「正規雇用労働者を採用せず育成しなくなるから」これはいけない、というのが話の筋です。事実、審議会でも労働者側委員は、常用代替防止(派遣先の正規雇用者にかわって派遣労働者が位置を占めること)に強い危機感を表明しています。抵触日を廃止すると、一部の現場では常用代替現象が発生することは否めないでしょう。

一方、正社員を求人し続けているにもかかわらず、「人手不足」に悩む業界もあります。消費税増税前の臨時の需要で沸く建設業界では、配管や内装などの各専門分野の職人が決定的に不足しており、着工できない建物があちこちに見られます。建設の分野では施工管理など一部を除き作業員の派遣が禁止されていますから、法改正があっても労働力の不足がただちに補われることはないでしょう。建設の分野は、かつての「花形」から「長期的には保障のない分野」へと世論によって位置づけられてしまったことから、「安定しない就職先」として敬遠されるようになってしまったようです。

さらに、第一次産業などもともと正規雇用がほとんど存在せず季節的に需給変動が大きな産業の周辺では、収穫期に大幅な人手不足が発生しています。 しかし、「臨時の雇用」であることを理由に、ハローワーク関係の各種助成金を受給する機会に恵まれず事業者は高齢化した農業ヘルパーを頼るしかありません。 もともと「臨時の需要」については「季節労働者の通年雇用」を合い言葉に厚労省は「通年化、正規雇用化」を掲げていますが、需要が季節的なので限界があります。 そして「臨時の雇用=格好悪い」というイデオロギーが、都会の失業者を地方へ短期間でも就労させることにハードルをつくり、「日雇派遣禁止」がそれに追い打ちをかけました。

ひとくちに、労働者の福祉の増進といっても、従事する業務の内容や働く現場が違えば全く異なります。法律が成立し、改正される舞台は国会です。 できるだけ多様な立場の議員が議論に加わり、本当に労働力不足で困っている現場の声が国の中枢に届いてほしいものです。当事務所も、ランスタッド及びそのお客様を通りしてたくさんの現場を拝見しながら、本当に必要な制度は何か、本当に働く人にとっての幸せとは何かを一緒に考える2014年としたいと思います。

(2013.12.27 掲載)


このコラムに関するお問い合わせ:
ランスタッド株式会社 コミュニケーション室
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労務コンプライアンスノート本コラムでは、多様な人材を活用する企業人事部門の皆さまが、コンプライアンスに則った適正な形で人事・労務業務を遂行いただけるよう、ランスタッド顧問社労士がバラエティに富んだ労務トピックスを分かりやすく解説いたします。

特定社会保険労務士 田原 咲世 (たはら・さくよ)

1968年大阪生まれ。立命館大学修士課程修了後、旧労働省に入省し、労働基準法・男女雇用機会均等法・派遣法改正などを担当。2008年3月まで北海道労働局の需給調整指導官として活躍。2008年4月から札幌で北桜労働法務事務所を経営。特定社会保険労務士として、労働関係法を中心とした指導を行う。現ランスタッド、顧問社労士。

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