派遣先から派遣労働者の昇給を提案できるか

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
閉じる
2012/11/28

【労務・コンプライアンスノート】 第10回: 派遣先から派遣労働者の昇給を提案できるか

コールセンターなどでは、派遣先がオペレーター養成のノウハウを持ち、スキルのチェックにも深く関与していることが多く見られます。

派遣先は、優秀な派遣労働者が退職したり、ライバル会社のオペレーターに転職しないように、できる限り長く働いてもらいたいと考えます。このため、派遣先は派遣元事業主に対し「優秀な派遣労働者の賃金を優遇してあげてほしい」と要望することもあります。

このように派遣先の意向で派遣労働者を昇給させることはできるのでしょうか。

賃金は使用者から労働者に支払われるものであり、派遣労働者を雇用しているのは派遣元事業主ですから、賃金の決定や計算と支払いの責任は全て派遣元事業主にあります。

派遣先は、派遣労働者が提供したクオリティの高い労務に対し高い派遣料金を設定することができますが、支払った派遣料金を派遣元事業主がどのように派遣労働者の賃金に反映するのかは、派遣元事業主の裁量になります。

派遣先としては、せっかく高い派遣料金を支払うのですから「できる限り派遣労働者の賃金に反映し、派遣労働者のモチベーションを高く保ちたい」と思うのは当然でしょう。

そこで注目されているのが、今回の法改正で盛り込まれた法第30条の2と、改正された「派遣先が講ずべき措置に関する指針(以下「派遣先指針」といいます)」です。

法第30条の2第1項では、派遣元事業主は、派遣労働者の賃金の決定に際し、派遣先での職務の成果や意欲を勘案することが求められています(配慮義務)。

また、これに対応し派遣先指針では、派遣先は「派遣元事業主が派遣労働者に適切な賃金を決定できるよう、派遣元事業主からの求めに応じ派遣労働者の職務の評価等に協力するように努める」ことが求められています(努力義務)。

したがって、今後は、派遣元事業主と派遣先とで評価基準や評価方法についてあらかじめ取り決めを行い、派遣先の協力を得て派遣労働者の評価を行うとよいでしょう。

また、この評価は派遣先指針にもあるように「派遣元事業主が派遣労働者に適切な賃金を決定できる」ことを目的としていますので、当然ながら一定額を派遣元事業主から派遣労働者の賃金に反映するしくみも作ることができます。

ひとつの派遣先に派遣労働者が長く勤務できないことは、派遣労働者のキャリア形成が困難な理由に挙げられていました。

派遣先の協力により、モチベーションの高い派遣労働者に気持ちよく派遣就労していただく環境が整えられるとともに、派遣労働者のキャリア形成にも効果があると考えられます。

(2012.11.28 掲載)



このコラムに関するお問い合わせ:
ランスタッド株式会社 コミュニケーション室
Tel: +81(0)3-5275-1883
Email: communication
@randstad.co.jp

労務コンプライアンスノート本コラムでは、多様な人材を活用する企業人事部門の皆さまが、コンプライアンスに則った適正な形で人事・労務業務を遂行いただけるよう、ランスタッド顧問社労士がバラエティに富んだ労務トピックスを分かりやすく解説いたします。

特定社会保険労務士 田原 咲世 (たはら・さくよ)

1968年大阪生まれ。立命館大学修士課程修了後、旧労働省に入省し、労働基準法・男女雇用機会均等法・派遣法改正などを担当。2008年3月まで北海道労働局の需給調整指導官として活躍。2008年4月から札幌で北桜労働法務事務所を経営。特定社会保険労務士として、労働関係法を中心とした指導を行う。現ランスタッド、顧問社労士。

ログアウト