ベテランパワーと雇用の確保

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2012/08/30

【労務・コンプライアンスノート】 第8回: ベテランパワーと雇用の確保

高年齢者雇用安定法を改正する法案が、8月1日に衆議院を通過し、参議院で審議中です(8月30日現在)。
同法案では、定年退職後の再雇用について労使協定による基準を設けることなく希望者全員について65歳までの雇用の確保の措置を講ずることを義務づけています。

成立した場合は、従来と同様に、60歳以前に在籍していた企業だけでなくグループ内の企業にて再雇用を行う措置も認められる予定です。

改正派遣法でも、60歳以上の高年齢者を規制の適用除外とする内容が多く含まれ、グループ内の派遣元にて再就職し派遣就労にて活躍される途を拓いています。

高年齢者が関係する適用除外の政令・省令は以下です。

(1)日雇い派遣の原則禁止 ... 60歳以上の者
(2)「専ら派遣」の規制 ... 60歳以上の定年退職者
(3)離職労働者を派遣労働者として受け入れることへの規制 ... 60歳以上の定年退職者

ここで、(2)(3)には「60歳以上」という年齢要件だけではなく、「定年退職」という要件も課されていることに注目です。

「定年退職」という要件を設けた理由は、60歳以上(例えば63歳)の定年を既に設けており雇用を継続する就業規則や労働協約等があるにもかかわらず、60歳を機に離職を促すことを防ぐためです。

厚生労働省としては、改正法案成立後の高年齢者雇用安定法と改正労働者派遣法をリンクさせて、60歳以上のベテランパワーを派遣就労でも活用していく意図だったのでしょう。

しかし、各地でこのような声がきかれます。

「わが社は特定派遣会社のため、派遣労働者はほとんどが正社員であり既に定年を65歳としております。この場合、60歳以上であっても65歳未満は"専ら派遣""離職労働者の受入"に関する規制の適用除外とならないため全くメリットがありません。60歳定年に戻すことはできるでしょうか。」

「58歳で勤務先が倒産して離職した求職者が、安定した再就職先を見つけることができないまま60歳になっても、"専ら派遣"における適用除外に該当しません。申し訳ないのですが当社にスタッフ登録をされても、企業戦略上、派遣先を案内することができないかもしれません」

求職者の責任ではない理由で定年を全うできないまま離職される高年齢失業者が増えています。

「定年退職」という要件を設けることで、かえって高年齢者が派遣労働者として再就職する機会を失うなら、政策として一長一短です。

政府には、法施行後も現場の求人求職動向に目をひからせ、改正された場合の高年齢者雇用安定法及び労働者派遣法が、実際にベテランパワーの雇用創出に役立っているかどうか確認していただきたいものです。


■お詫び■

ランスタッド(株)主催「改正派遣法の真実」セミナーにて、「専ら派遣」の適用除外は「60歳以上」という年齢要件のみをご説明し、「定年退職」に係る要件を併せて説明しておりませんでした。
政令・省令公布及び各都道府県労働局による法改正説明会において、「専ら派遣」の適用除外は、「60歳以上」「定年退職」の両方の要件を満たすことが必要である旨が確認されました。
正確ではない情報でご説明、資料の提供を行ったことを心よりお詫び申し上げます。

(2012.8.30 掲載)

このコラムに関するお問い合わせ:
ランスタッド株式会社 コミュニケーション室
Tel: +81(0)3-5275-1883
Email: communication
@randstad.co.jp

労務コンプライアンスノート本コラムでは、多様な人材を活用する企業人事部門の皆さまが、コンプライアンスに則った適正な形で人事・労務業務を遂行いただけるよう、ランスタッド顧問社労士がバラエティに富んだ労務トピックスを分かりやすく解説いたします。

特定社会保険労務士 田原 咲世 (たはら・さくよ)

1968年大阪生まれ。立命館大学修士課程修了後、旧労働省に入省し、労働基準法・男女雇用機会均等法・派遣法改正などを担当。2008年3月まで北海道労働局の需給調整指導官として活躍。2008年4月から札幌で北桜労働法務事務所を経営。特定社会保険労務士として、労働関係法を中心とした指導を行う。現ランスタッド、顧問社労士。

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